一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

どんと来い、新幹線

九州新幹線の全線開業が来年3月12日と決まった。先日見学した富合町の新幹線熊本総合車両基地には、「さくら」と「つばめ」がすでにスタンバイしていた。北は青森から南は鹿児島まで、熊本が全国主要都市と結ばれる新幹線時代のカウントダウンがいよいよ始まったのである。


今から37年前、私は青森県で社会人としてのスタートを切った。その青森県は、九州より一足先の本年12月4日、東北新幹線の全線開業を迎える。盛岡̶青森間の新幹線整備計画が決定したのは私が青森県に赴任して間もない昭和48年11月、「これでみちのく(道の奥)から脱出できる」と、県全体が沸き返ったのを記憶している。しかし、昭和57年に盛岡まで開通した東北新幹線の整備はその後なかなか先に進まず、整備計画決定から37年を経た本年12月、ようやく県都青森市に到達するのである。


実はこの東北新幹線は、当初、九州新幹線と同時の来年3月に全線開業が予定されていた。しかし、春まだ浅く雪も深い3月上旬に、青森県が九州新幹線と同時に全線開業を迎えるとすれば、明らかに開業効果が小さくなってしまう。青森県はJRと粘り強く交渉を続け、ついに本年5月、開業を3カ月前倒しすることが決定されたのである。新幹線で全国主要都市と結ばれることは地域間の競争も激しくなることを意味するが、そうした激しい競争は開業前からすでに始まっているのである。


東北新幹線は平成14年、盛岡市から青森県南端の八戸市まで延長された。それまで殺風景な工業都市であった八戸市は、新幹線駅開業を機にグルメと観光の街へと変身し、新幹線を活かした地域づくりの成功例として評価されている。八戸̶盛岡間の乗客数は、八戸駅開業前の285万人から開業1年目で1.5倍の418万人に増加し、開業5年目には456万人に達するなど開業後も高水準が維持されている。八戸駅開業当時のJR盛岡支社長は「八戸開業が成功と言われるのは、開業準備段階から地元が盛り上がり、協力してくれたからだ。街全体のエネルギーが一気に爆発したのが素晴らしかった。」と振り返っている(地元紙「デイリー東北」平成22年1月4日)。そして今、待ちに待った東北新幹線の全線開業を目前にした青森県の人たちから聞かれるのは、「どんと来い、新幹線」という言葉である。


私たちの住む熊本県も、九州新幹線全線開業に向けて秒読み段階に入った。地域流通経済研究所の調査(平成21年12月)で「期待感大きい鹿児島、危機感大きい熊本」とされるなど、これまでしばしば地元の期待感や関心の低さが指摘されてきた。しかし私は、ここに来て県民の関心も日々高まり、観光客の受入れ体制や新商品の開発など様々な分野で新幹線を迎える取組みが進みつつあると感じている。ただ、個々の取組みは目にすることができても、なかなか全体の姿が分からない。どこが不足しているかも見えない。ここは行政が、こうした個々の取組みをコーディネートするとともに、新幹線全線開業に向けた全体のグランドデザインを示すことが必要であろう。それによって、行政と民間のエネルギーが結集され、さらなる連携プレーや相乗効果が期待できる。私たちもまた、「どんと来い、新幹線」と胸を張って新幹線を迎えることができるのではないだろうか。


2010年10月号掲載

熊本県立大学 総合管理学部教授
桑原 隆広

昭和48年京都大学法学部卒。同年自治省入省。
青森県、新潟県、静岡県に出向し、市町村自治、地域振興、財政などを担当。
国土庁、消防庁では、国土計画、災害救助などの企画立案を担当。
その後、自治省企画課長、市町村職員中央研修所副学長を務め、平成18年熊本県立大学総合管理学部教授着任、現在に至る

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