各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
アジアにもっと目を向けよう! ~シンガポールの奇跡と九州経済~
1995年から2年間、シンガポールに駐在した。シンガポールは東南アジアの赤道直下にある都市国家である。1965年に隣国マレーシアから分離独立し、建国から40年余りしかたっていない。それにもかかわらず、驚異的な経済発展をとげ、「シンガポールの奇跡」と呼ばれている。2007年には一人当たりGDPで日本を抜き、アジアで第1位となった。本年9月に世界経済フォーラムが発表した、国際競争力ランキングではスイス、米国に次ぎ世界で第3位である(日本は8位)。
シンガポールの面積は7百平方kmと、熊本県の面積の1割にも満たない。人口も約480万人である。国内市場だけで経済成長しようにも自ずと制約がある。そこで、東南アジアのハブ(核)を目指し、東南アジアにおけるヒト、モノ、カネの流れがシンガポールを経由して行われるように施策を展開した。東南アジア地域の経済成長の成果を取り込もうとしたのである。
その一端を紹介すると、同国内にあるチャンギ空港は世界で最高の空港の一つとして評価され、アジアをはじめ世界各国に路線を展開している。また、外国人駐在員とその家族が生活しやすいように、衛生的で安全な街を実現し、病院や学校や商業施設も整えた。市内の交通渋滞を防ぐために、地下鉄等の公共交通機関を整備する一方、自家用車の保有台数を制限している。英語教育を徹底し、殆どの国民が英語を話す。タクシーの運転手が誰でも英語を話せる唯一の国とも言われている(英米ではタクシーの運転手は移民の第一世代の場合があり、英語を話せないことがある)。その結果、欧米の多国籍企業でアジア太平洋地域の統括拠点を同国に置く企業が増えている。
シンガポールで特徴的なことは、独自のものは少ないものの、世界最高水準のものを引っ張ってくる積極性である。法制度は植民地時代の名残からイギリス法体系である。税制優遇等の外資導入策により多国籍企業を誘致する。他国の施策と比べて遜色がないよう、外資導入策は改善を重ねている。人口が少ないために、知的労働者を中心に移民を受け入れている。最高水準の研究者等には破格の条件を提示して招聘する。官民をあげて国際競争力強化に努めているのである。その結果、世界銀行と国際金融公社が本年9月に発表した、「ビジネス環境の現状」において、ビジネス環境の規制緩和の総合ランキングでは4年連続で第1位となっている(日本は15位)。
東南アジアの人口は、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム等のアセアン諸国で合計6億人。これに中国の13億人、インドの11億人を加えると30億人の巨大な市場が広がり、現在でも人口が増え続けている。一昨年来の世界的な金融危機の後、アジア地域は世界の他地域に先んじて危機から抜け出しつつある。他方、日本の人口は1億3千万人。少子高齢化が進む中で、市場の拡大にも制約がある。地理的にアジアに近い九州は、日本の20倍以上の市場規模を有するアジア地域にもっと目を向けてもよい。
アジアの経済成長を取り込む姿勢、世界最高水準のものを引っ張ってくる積極性-「シンガポールの奇跡」は、今後の九州経済の発展を考えるにあたり、有益な示唆を提供しているのではないか思われる。
2009年10月号掲載
財務省九州財務局 局長
水野 哲昭
昭和34年3月30日生、東京都出身、東京大学経済学科(昭和56年3月卒)、同年4月大蔵省(現財務省)入省、62年7月藤枝税務署長、平成10年6月関税局国際機関課関税企画官、12年7月財務総合政策研究所研究部長、16年7月関東財務局理財部長、17年7月近畿財務局総務部長、20年7月大臣官房会計課長、21年7月九州財務局長
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