各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
「共生社会」の実現へ向けて ~特別支援教育の目指すもの~
「特別支援教育」の目指すものは、「共生社会」の実現であり、そのためのインクルーシブ教育システム構築へ向けての取組です。
明治維新後の日本が目指したのは、欧米列強に追いつくため富国強兵の社会でしたが、140有余年経ち成熟した現在の日本が目指す社会の姿は、「共生社会」です。我が国は、このような理念実現へ向けて国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」に署名し、国内法を整備した後の平成26年1月20日に批准しました。
中教審初等中等教育分科会に出された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」に関する報告によると、「共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障がい者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である」と定義されています。また、このような社会実現へ向けて教育が取り組む「インクルーシブ教育システム」とは、「人間の多様性の尊重等の強化、障がい者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することの目的の下、障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組み」(障害者の権利に関する条約)とされています。また、「障がいがある者が一般的な教育制度(general education system)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な『合理的配慮』が提供されることが必要」ともされています。「合理的配慮」に関しては、条約において「障がい者が他の者と平等に全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とし、合理的配慮の否定は、障がいを理由とした差別に含まれるとしています。
学校においては、生徒が主体的に学習活動に取り組めるように様々な工夫をしています。言葉だけで伝えても理解が困難な生徒がいます。言葉(音声)は、録音しない限り形としては残らないからです。そのような生徒には、文字や絵にして伝えると理解できることが多いです。形として残っていますから、忘れたとしてももう一度見ればわかります。定規の目盛りを見て材料の長さを測ることが困難な生徒でも、定規の目盛りに測る長さの部分に印を付けておいたり、求める材料の長さと同じ長さの定規を作っておいたりすると測ることができます。これらの工夫が「合理的配慮」と考えて良いのだと思います。合理的配慮がなされた学習環境において、障がいのある生徒たちは学ぶ喜びを感じ、自己肯定感や自己有用感を高める事ができると思います。
共生社会の具現化を図るべきは学校であると考えます。将来の社会の形成者たる子どもたちが学校において共生社会を実感する経験は大きいと思います。企業の社会的使命を経営理念に掲げられる同友会の皆様にもこの取組は、ご理解ご賛同を得られるものと期待しております。
2014年9月号掲載
熊本県立ひのくに高等支援学校 校長
宮田 寿光
昭和33年1月松橋町(現在の宇城市)生まれ、鹿児島大学教育学部卒業。
57年から
熊本県立松橋西養護学校(現在の松橋西支援学校)に勤務。その後荒尾養護学校、熊本養護学校に勤務、その間に熊本大学教育学部障害児教育専攻科に1年間国内留学。平成21年より芦北支援学校にて教頭、24年より天草支援学校にて校長、26年よりひのくに高等支援学校にて校長
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