各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
多様な人材を育てる中小企業の活躍を
アベノミクスの成長戦略の中核に「女性の活躍促進」が位置づけられ、国・自治体・経済界の推進体制も整いつつあります。しかし、なぜ、いま、「女性の活躍促進」なのでしょうか。
男女共同参画社会基本法には、その制定にいたる理由が二つ記されています。ひとつは、男女平等の実現は人権問題でありその改善に引き続き取り組む必要があること、ふたつ目が、社会経済状況の変化が著しくその対応に迫られていることです。いうまでもなく、「女性の活躍推進」施策は後者のなかに位置づけられます。
1960年代から70年代にかけて、日本経済はいわゆる「高度成長」を謳歌しましたが、それを可能にした条件は残念ながら今はもうありません。産業構造や消費行動は一変しました。人々の価値観が多様化し、「隣の人と同じものがほしい!」から「他の人とは違うものがほしい!」へと嗜好パターンも逆転しました。そして何よりも、女性の多くが専業主婦になってもそれを補って余りあった「団塊の世代」は今や高齢期を迎え、少子化も重なり、労働力不足が深刻化しつつあります。
激化する内外の競争環境のなかで、労働力を確保しつつ多様化した市場に対応するためには、性別、国籍、年齢、障がいの有無にとらわれず多様な人材を確保し活用するしか道はありません。その試金石が「女性の活躍」でした。人口の半分を占める女性の活用ができずして、多様な人材活用戦略(ダイバーシティ)は望めません。
ただ、この「多様性」は多様な属性の人材を採用すれば事足りるわけではなく、常につくり出される必要があります。多様な人材を採用したとしても、四六時中、同じ職場で顔を突き合わせてばかりいてはやがて同質化してしまいます。多様性を保つには、職場の外での異なった生活体験や発想を持ち寄ることが不可欠になります。仕事と生活の両立(ワーク・ライフ・バランス)が従業員のみならず企業経営にとっても重要である理由はここにあります。
ダイバーシティ、女性の活躍推進、ワーク・ライフ・バランスの取組みは福利厚生の問題ではけしてありません。それらを経営戦略の問題として位置づけ、三位一体的に取り組んではじめて企業業績の改善にむすびつけることができるものです。そして、そのための具体的施策として、トップの強いコミットメントと方針の徹底、多様で柔軟な職場環境の整備、管理職の意識改革とマネジメント改革、職務の明確化と適正な人事評価、などの施策が「自社の実態に即して」工夫し実施されることが求められているのです。
中小企業は、その存在自体が多様性に富んでいます。加えて、トップのリーダーシップの強さの点でも、対応の柔軟さにおいても、制度先行型の大企業よりもフットワークが軽い。そして実際、これまでも、従業員の個別のニーズに合わせて臨機応変な対応を行ってきました。この強みを経営上の問題として自覚し、魅力的な実践事例を相互発信することで、付加価値の高い発想を生み出す人や組織をさらに育んでいくことが期待されます。同友会が長年育んできた「人を生かす経営」の真価が問われているといえるでしょう。
2015年3月号掲載
熊本大学 法学部 教授
鈴木 桂樹
1955年12月29日福井市生まれ、
大阪育ち、広島と名古屋に学ぶ。87年に熊本大学赴任。96年より現職。専門は政治学。総務省熊本行政評価事務所行政苦情救済推進会議座長、熊本県男女共同参画審議会会長、熊本市男女共同参画会議会長など歴任。共著に、『比較安全保障』(成文堂)、『ジェンダーと政治過程』(木鐸社)、『現代イタリアの社会保障』(旬報社)など。
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