各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
「地方創生」に環境の視点を
過疎化による中山間地の荒廃や公共交通サービスの削減、中心市街地の衰退と郊外型店舗の増加…。地方で進むこうした問題は、今や環境問題と一体不可分の関係となっている。
今年の環境白書「環境・循環型社会・生物多様性白書」は、持続可能な地域の再生や地域活性化に環境政策を生かす必要性を訴える。その先例として、水俣病を教訓にした水俣市の「環境まちづくり」を取り上げた。
白書によると、水俣市と環境省は統計データを基に生産、分配、消費支出を通じて資金が域内でどう循環しているか、同市の経済状況を分析。その結果、消費は隣接する鹿児島県出水市郊外の商業施設などに流出し、金融機関に預けられた貯蓄のうち市内への再投資は2 ~ 3割にとどまっていた。また、電力、ガス、ガソリン代として域内総生産の約8%に相当する約86億円が域外に流出していることなども分かった。
地域の「富」の流出をどう防ぐか。同市では分析結果を踏まえ、肥薩おれんじ鉄道を活用した観光の推進や地元企業が参画した太陽光、バイオマス発電計画など再生可能エネルギーの利用拡大、市内の中小企業が行う環境投資への公的援助など「環境」を中心に据えた地域づくりを進めているという。
地方には豊かな自然景観をはじめ、太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスといったエネルギー資源が存在する。自治体と住民、企業が一体となってそれらを生かした事業を進めれば域外に流出している資金が地元に還元され、雇用創出にもつながるのではないだろうか。
水俣市の環境まちづくりを通じて白書が訴えていることは、大量生産、大量消費、大量廃棄による従来型の環境負荷の大きい地域振興策を転換。地元の資源を生かして地域経済や社会の活性化を目指そうという発想だ。「地方創生」にもつながる大事な視点だろう。同市の取り組みが、水俣病の教訓とともに全国の自治体に広がることを期待するのと同時に、政府には、地方主導の再生可能エネルギー開発への制度面、財政面の支援などを求めたい。
一方、白書は地域の「里地里山」の維持にも紙数をさいた。里山は近年、過疎化に伴って適切な手入れが行われなくなり、二酸化炭素(CO2)の吸収力や保水力の低下、シカやイノシシなどによる鳥獣被害の増加といった事態を招いている。
このため、環境省は、生物の多様性を維持するために守るべき各地の里山を「重要里地里山」として選び、保全や活用の具体策を検討する考えだ。地方の窮状や里山の価値について国がやっと目を向けた形だが、自治体や環境保護団体、周辺住民の意見を十分に採り入れ、効果的な利活用策を求めたい。
里地、里山ばかりでなく、地方にある森林や湿地、河川、海などを、人々に多くの恵みをもたらしてくれる国民共通の「自然資本」と考えたい。その上で、そうした自然環境を守り育てる地方の努力に都市に住む受益者が対価を払う。そんな都市と地方の住民が連携する「地域循環共生圏」づくりの考えを「地方創生」に採り入れたいものである。
2015年12月号掲載
(株)熊本日日新聞社 政経部長兼論説委員
金子 秀聡
昭和34年9月23日生まれ。同59年3月、法政大学経済学部卒。同4月に熊本日日新聞社入社。運動部、政経部など編集取材部門を歩き、平成6年菊池支局長、同16年人吉総局長、同18年政経部次長、同24年東京支社編集部長、同27年から現職
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