一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

企業経営に研究者の活用を

私の研究テーマ

生産工程を見える化して、再資源化の可能性を示したい・・・というのが私のテーマです。主な研究対象は「静脈産業」です。現在、ご協力を頂いているのは使用済自動車の再資源化を行う解体業者です。皆様には、「ドアトリムとは何ですか?」という初歩的な質問に、丁寧にお答え頂いています。何とも頼りない状況ですが、皆様のご協力によって、2015・16年度に解体業者との産学連携事業を実施し、破砕処理をしていた樹脂を再資源化する生産工程の開発を行うことができました。

生産工程の開発では、工程を評価するためにマテリアル・フロー・コスト会計を用いました。これは、製品のみならず、廃棄物も「製品」と考えて、製品と廃棄物の両方にコストが掛かっていることを示す計算方法です。管理者へ「廃棄物にこれだけのお金が掛かっているから、生産工程を改善しよう!」と気づかせることが目的です。気が付いた管理者は改善活動を進めていきます。結果、廃棄物が削減された生産工程が構築されます。


災害と研究

私が、静脈産業を研究対象としているのは、香川県豊島(てしま)への想いがあるからです。今年の3月28日に、不法投棄された約90万8,000トンの産業廃棄物の搬出が完了しました。私は、大学院生の時に豊島へ行き、住民と会いました。住民は、不法投棄によって、生活環境が変化したことに苦しんでいました。産業廃棄物には車の破砕ゴミが含まれていました。私は怒りました。私が学ぶ会計学は何も役に立たないのかという怒りです。その後に出会ったのがマテリアル・フロー・コスト会計です。廃棄物の再資源化をテーマにしようと思いました。

昨年、私に心境の変化が起きました。研究者が、今、熊本で行うべきことがあるのでは・・・と思いました。それは、熊本学園大学の産業経営研究所が主催した「震災復興と地域・組織マネジメント」という研究会に参加してからです。研究会では、震災発生から事業再開について、中小企業へ行った聞き取り調査の結果が報告されました。

災害や事故などに備え、事業継続を実施するために必要な事項を盛り込んだ計画を言うBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)では、重要業務の選定、被害想定、戦略・対策検討を経てBCP基本文書の作成が行われます。調査の結果から、BCPと復興の関係について報告がされました。BCPによって優位だった点は、リスク分散としての各種データの二重保管が行われていたこと、取引銀行等から優先的に融資・協力が得られたことでした。しかし、BCPが無くても、企業理念に基づくことで優先事業の決定と経営活動が可能であり、明確な再建計画と迅速な投資決定があれば迅速な事業再開・事業継続は可能であるいうことでした。


これからの研究

東日本大震災では、事業再開を可能にさせた鍵が企業で異なっていました。では、熊本地震の状況はどうなのか?私は、熊本で何が起きたのかについて情報を整理し、経験からの知見を次世代へ伝えたいと考えています。そして、今年から、熊本学園大学、熊本大学、熊本県立大学等の研究者からなる研究分野を超えたネットワークを構築し、研究を開始しています。さらに、企業家の皆様とも、一緒に研究をしたいと考えています。

企業家の皆様におかれましては大学研究者をもっとご活用いただければと思います。これから、一緒に、生産工程の改善、事業の再建等を考えていきませんか。



2017年5月号掲載

熊本学園大学大学院 会計専門職研究科
准教授
木村 眞実

九州大学大学院経済学府博士後期課程単位取得後退学。博士(商学)(駒澤大学大学院)。専門は原価計算・管理会計論。資源循環と静脈産業の生産管理・原価計算を研究。著書『静脈産業とマテリアルフローコスト会計』白桃書房(2015年)。現在、公益社団法人自動車技術会リサイクル技術部門委員会委員

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