各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
人材確保に向けた取り組み
熊本県内の景気は、緩やかに回復しています。新型コロナの感染症法上の位置付けが第5類に移行されたことで、外食や旅行などのサービス消費が一段と上向いています。6月短観調査(日銀熊本支店)では、2023年度の設備投資計画が前年比2桁のプラス、2024年度の新卒採用計画は2年連続の前年比2桁のプラスとなりました。熊本県における企業経営者のマインドが全体として前向きであることがわかります。
その一方で、人手不足感が強まっています。日本銀行が6月に公表した「地域の企業における人材確保に向けた取り組み」では、新型コロナ禍以降の変化を中心に各地の様々な事例を紹介しています。
人手不足感の強まりの背景としては、①労働需給のタイト化と②ミスマッチの拡大を挙げています。経済活動の改善が進む一方、採用ターゲットとなる域内の若者が少なく、応募数も少ない。正社員として働く女性の増加を背景に、パート採用への応募者が減っている。ミスマッチの拡大では、システム開発に係るDX人材が不足しており、経験者採用でも充足できない。EV対応に必要な研究職が不足している。あるいは、転勤や不特定多数との接触機会が嫌気されるなど、新型コロナ禍を契機に働く人たちの就業意識が変化したとの指摘もあります。
それでは、人材確保のため、どのような取り組みが進められているのでしょうか。3点にまとめます。
第1に、賃上げを中心とした処遇改善です。パート等の非正規社員の時給を最低賃金以上に引き上げる。世の中の賃上げ機運が大きく高まる中で、社員の士気を保つため、ベアを実施する。半導体関連等による高給の求人が増加する中、従業員を大切にする姿勢を示すことが求められている、といった声もきかれています。
第2に、人材獲得チャネルの多様化です。経験者採用や副業・兼業人材の登用の拡大、一度退職した人材の復職の推進、シニア層の一段の活躍推進、外国人採用の強化などを模索する動きがみられています。
第3に、ジョブ型雇用の導入などの人事制度改革やリスキリング等による従業員の能力開発を支援する動きを進めることで、収益力の向上を伴う継続的な賃上げを目指す企業もみられます。
先行きも、人口動態の変化等を踏まえると、人手不足感が高まりやすい環境は続くでしょう。労働力の新たな掘り起しや生産性の高い部門へのシフト、従業員の能力向上等の動きが広まり、収益力の向上につながっていくかが鍵となります。
これらは、言うは易し行うは難しかもしれません。しかし、中小企業家同友会の活動方針にも掲げられている、「人を生かす経営」の実践、経営戦略の再構築や戦略の転換で企業体質を強化するといったことそのものに感じます。熊本県経済が大きく飛躍する兆しをみせるなか、課題に向き合い、対応を進めていく正念場を迎えているのではないでしょうか。
2023年8月号掲載
日本銀行熊本支店長田原 謙一郎
1969年生まれ、鎌倉市出身。93年東京大学経済学部卒業、同年4月日本銀行に入行。発券局、長崎支店、大阪支店、金融市場局、調査統計局、業務局、情報サービス局、政策委員会室等を経て、17年5月金融研究所歴史研究課長、20年7月帯広事務所長、22年6月総務人事局人材開発課長、23年4月から現職。
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