各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
中小企業振興基本条例を活かす条件
熊本地震から10カ月近く過ぎようとしています。被災された皆さんに改めてお見舞いを申し上げます。私も、この間、何度か被災した熊本や大分にお邪魔してきました。また、他方で、被災後6年を経過した岩手、宮城、福島の被災地にも足を運んでいます。これらの被災地では、いま中小企業家同友会の仲間が主体的に中小企業振興基本条例の制定や活用に関わっており、私もその手伝いをしているところです。
私が中小企業振興基本条例に注目しはじめたのは2005年のことでした。その時点での条例制定自治体数は3県24市区でした。それから2010年までの5年間に16道府県62市区町まで増えます。さらに東日本大震災後2016年4月6日現在までの制定自治体は42道府県167市区町に増えました。東日本大震災後、急激に増えていることがわかります。熊本県でも2007年に県条例が制定されたあと、菊池市、山鹿市、八代市、水俣市、合志市、菊陽町、熊本市、宇土市に広がり、2015年には益城町でも制定されています。熊本同友会の皆さんの取組みもあって、九州のなかでも最も多くの自治体が条例をもつようになっています。
ただ、条例がまだ制定されていない自治体もかなり残されています。また、条例があっても、それが現場で活かされていないところも多いのではないでしょうか。とくに震災復興の過程において、県や市町村の復興政策が地元の中小企業や農家、協同組合の再生を第一に考えたものになっているかどうかが、ひとつの重要な試金石です。目立った被害が出ていない市町村においても、果たして自らの経営環境の改善に自治体の施策がつながっているかどうかを再点検してみてください。
実は、中小企業振興基本条例が急増するなかで、議会や自治体幹部のところで横並びで「うちの自治体にも条例をつくろう」というスタンスで制定される条例が増える傾向にあります。いわゆる「できちゃった条例」あるいは「棚上げ条例」が残念ながら存在しているのです。すでに条例を制定しているところでは、その条例に「魂を吹き込む」ことが必要になっていますし、これから条例を制定するところでは初めから「魂を入れた条例」づくりが求められています。
そのためには、何が必要なのでしょうか。私は、いくつかの自治体の条例制定の議論、そして条例を活用した施策の策定に関わってきました。そこでの経験を踏まえると、中小企業家同友会会員が、産業振興会議のような会議体があるころではそれを活用し、会議体がないところでは密に行政担当者に働きかけを行い、条例の制定や有効な活用法について、先進自治体の具体例を紹介しながら、議論や政策立案をリードしていくことが必要です。
ただし、もっと重要なことがあります。その自治体において、本業の仕事の面だけでなく、地域社会への貢献という面でも、あるいは文化活動を通して住民からレスペクト(尊敬)される経営を行い、自らの生活の場としての地域をよくすることに努めている中小企業家がいるかどうかです。そういう企業が増えれば増えるほど、自治体職員だけでなく住民や議員も信頼を寄せて、震災復興や地域経済振興の主役としての中小企業を系統的に育てる取組みが深化・拡大し、活きた条例にすることができます。
条例については担当役員任せという姿勢ではなく、会員一人ひとりが地域社会の主人公として自覚し、よい会社づくりとその輪を地域で広げていくことが必要になっています。
2017年2月号掲載

京都大学大学院経済学研究科教授
岡田 知弘
1954年富山県生まれ。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科博士後期課程を経て、現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は地域経済学。日本地域経済学会会長、自治体問題研究所理事長。主な著書に、『地域づくりの経済学入門』、『震災からの地域再生』、『中小企業振興条例で地域をつくる』(共著)、『災害の時代に立ち向かう』(共著)ほか
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