熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

成熟社会における企業・社会のあり方 ~今こそ価値観の転換を~

東日本大震災や福島第一原発事故、欧州危機、長期化するデフレ、驚異的な円高など、我々がこれまで直面したことのない事態が近年起こっております。大きな経済の流れを変えるためには、政府レベルでの大胆な経済政策の転換が不可欠だと考えておりますが、このような閉塞状況において、日本人はいま時代の流れがどうなっているのかの洞察を行い、その変化に応じて価値観の転換を図らなければならないのではないかと感じております。


たとえば、利益の最大化が、企業にとって最良の選択とは限らないということです。利益の追求が企業の発展のために重要なことは言うまでもありませんが、成熟社会においては、そこに軸足を置きすぎるとかえって事業が持続可能でなくなることもあると思います。鹿児島県阿久根市にある(株)マキオが運営するスーパーセンター「A ー Z」のように、あえて顧客に対しては効率化することをやめて、その結果逆に売上と利益を伸ばすという戦略を実践している企業もあります。また、本県にも工場が立地するサントリーのビール事業は、45年間赤字を続けてきましたが、近年になってようやく黒字に転換し、会社を引っ張っていく事業へと成長を遂げました。


このように極端な事例ばかり見ていると、それらは例外的なケースなのではないかと感じられるかもしれません。ただ、どのような企業であれ、これまでの既存の価値観を時代の流れに合う形で見直し、ビジネスモデルを変容させていくことが大なり小なり必要だと考えます。わが国は成熟社会に入っているものの、社会システムや企業経営はまだその新たなモデルに対応するだけの態勢になっていないと思います。役所も民間も、悩みながら、知恵を出し合い、これからの難しい時代を生き抜くための考え方を模索していく必要があります。


ところで、冒頭から「成熟社会」という言葉を使っておりますが、いったいどういう社会なのでしょうか。私は、「悩みの質がこれまでと異なり、かつ多様化した社会」と捉えています。高度成長期には、国民大多数の悩み、ニーズが共通しており、それに応えることができれば企業も成長することができたのですが、わが国が豊かになった後は、これまでとはずいぶん違う悩みを国民が持つようになりました。


かつては生活の質を上げるために、よい家電製品や自動車を買い揃えることが人々の悩みの解決や満足につながりました。しかし、今これ以上テレビの画質がよくなったとしても、あまり消費者の満足には結びつかないところまで行き着いてしまったと思います。必ずしもテレビ自体が市場の限界を迎えたわけではないと思いますが、明らかにテレビという製品に対して消費者が求めるものが変質しているのだと考えます。たとえば、これからのテレビには、安否確認ができるもの、災害情報を伝えられるもの、画面を通じて診療を受けられるもの、という機能が求められるかもしれません。テレビがより個別の悩みに寄り添い、解決できるものへと多様化していくものと思われます。


中小企業においても、このような成熟社会への質的転換を図ることで、新たな需要を創出することが可能だと考えております。熊本県としましては、新商品の開発、新事業の展開、海外への進出、他分野への事業転換、人材育成など、それぞれの企業がめざす方向性やニーズに応じた総合的な支援メニュー「中小企業チャレンジサポート」を用意しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。


2012年10月号掲載

熊本県 副知事 小野 泰輔

熊本県 副知事
小野 泰輔

昭和49年4月20日生まれ、
東京都出身、平成11年3月東京大学法学部卒業、平成11年7月アンダーセンコンサルティング、 12年7月衆議院議員藤島正之事務所、14年8月明豊ファシリティワークス株式会社、 20年4月熊本県政策調整参与、22年4月熊本県政策参与(知事補佐担当)、24年6月熊本県副知事

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