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ポピュリズムにみる英雄待望論と協働参画論 「騒動の季節が去って-阿久根市」の記事から

今年の1月3日の朝日新聞で、阿久根市の「騒動」のことを振り返るかたちで記事が書かれていた。タイトルは「騒動の季節が去って−阿久根市」であった。この「騒動」はポピュリズム(民衆の利益が政治に反映すべきという考え方)を考える上で、いい事例になると思っている。


この「騒動」の背景は地域経済の疲弊と政治家や行政担当者のあり方が問われたことだといっていいだろう。底流に、民の税金で支えられている高い所得の政治家・行政担当者と、払わされる民の所得の低さがそこにあり、高い所得を得ている彼らの政策の結果が民の所得の増加につながらなく、無策でありつづけたことに対しての「怒り」であったことが容易に推定できる。


そのことは逆に、政治家・行政担当者が民の低い所得の中から支えられている税金であることを忘れて、成果のない施策を繰り返すことは許されないということでもある。まさに政官のあり方が、もっといえば政策実行の成果・実績が問われているといえよう。


もちろん、「官民格差」がこうした政治の嵐を引き起こすのは世の常であり、古今東西においてみられ、考えてみれば決して新しいことではない。古くて新しい問題といえる。


熊本県を考えた場合でもそのことがあてはまるのではないかと思われる。長い間、県民所得の水準はきわめて低く、日本全体では低位水準に位置している。さらに県の収支を見てもマイナス構造が定着化している。そのようななかで、給与水準は官民格差がみられ、多くが公務員志向へと駆り立てられている。そしてそれに対する民からの羨望も底流に生じつつある。これは熊本県にかぎらず、わが国の政官も実は同じような状況におかれているとみていいのではないかと思う。


このような時代だからこそ、事態打開のために「英雄待望論」がでてくるのも不思議ではない。民衆の利益を政治にという旗印の下に現れた阿久根市の竹原市長、最近の大阪市の橋下市長は、その矛盾の産物として現れた典型的事例と見なすことができるのではないかと思う。そして他方で、奇妙なことに彼らにつきまとう言葉が「独裁」であったことは銘記しておく必要があろう。


精神科医で作家である「なだいなだ」氏が、かつてつぎのようにのべたことがある。英雄待望論の落とし穴は「英雄」はいつまでも「よい英雄」であり続けるとは限らないことだと。その意味で「英雄待望」を望む時代こそ不幸な時代はないといった。

わたしたちはこのような時代だからこそ、他人にまかすという他力本願的な、いわば誰かに任して、傍観するというやりかたではなく、苦労しながらでもみんなで考えながら参加して一緒に汗を流すという姿勢、つまり協働参画論的姿勢がいま必要な時期にきているといえる。


その点で阿久根市にみるケースは今の時代にきわめて重要な示唆に富む内容を含んでいると思うのだけれども、そのように思うのは私だけであろうか。


2012年3月号掲載

熊本学園大学 商学部教授 出家 健治

熊本学園大学 商学部教授
出家 健治

1950年、広島県呉市生まれ。
熊本学園大学商学部所属。商業論・地域流通研究担当。
主な著作は、単著『零細小売業研究―理論と構造』ミネルヴァ書房(2002年)、 単著『商店街の活性化と環境ネットワーク論-環境問題と流通(リサイクル)の視点から考える』晃洋書房(2008年)、 共著『グローバル化する九州・熊本の産業経済の自立と連携』日本評論社(2010年)、 共著『現代の地域産業振興策-地域産業活性化への類型分析』ミネルヴァ書房(2011年)など

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