熊本県中小企業家同友会

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各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

鄧小平の24字戦略

孫子の兵法をはじめ、中国の長い歴史は多くの戦略家を生んできました。私は軍事・外交の専門家ではありませんし、この小文をお読みいただいている皆さんの多くも、おそらくそうであると思いますが、孫子に由来する格言のいくつか(たとえば「彼を知り己を知らば百戦して殆(あや)うからず」や「風林火山」など)は、皆さんもよくご存じであると思います。


さて、21世紀に入り、軍事的にも、政治的にも、経済的にも、超大国への道をひた走る中国ですが、現在の隆盛に至るグランドデザインが鄧小平の改革開放路線であることは論を待たないでしょう。他方、着々と軍事力増強を進める中国の軍事及び安全保障についての基本戦略がどのようなものであるか、必ずしも明らかではないようです。米国では、国防総省が、毎年「中華人民共和国の軍事力」という年次報告書を議会に提出しており、その2008年版を財団法人日本国際問題研究所が邦訳しています。


この報告書の第2章「中国の戦略を理解する」の冒頭に引用されているのが、1990年代初頭、当時の最高指導者である鄧小平が外交・安全保障政策関係組織に発した、「24字戦略」として知られることになる指示です(「24字方針」、「24字箴言」などとも呼ばれるようです)。それは次のようなものです。


「冷静観察、站穏脚踵、沈着応付、韜光養晦、善於守拙、絶不当頭」

「冷静に観察せよ、我が方の立場を固めよ、冷静に事態に対処せよ、我が方の能力を隠し好機を待て、控えめな姿勢をとることに長(た)けよ、決して指導的地位を求めるなかれ」。

(本来は、「簡体字」で書かれているのですが、ここでは適宜、相当すると思われる日本の漢字に置き換えています。また、米国議会報告書の邦訳ですので、中国語を英語経由で重訳したことになり、ニュアンス等が異なるかもしれません)。


上記報告書は、鄧小平の指示を、「不必要な挑発の回避、過度の国際的負担の回避、及び長期的な中国の国力構築を通じ将来のオプションを最大限に広げるための戦略を示唆するもの」と解釈しています。また、意図と能力を隠そうとする努力を暗示するものだとも指摘しています。この方針が出された時期は、天安門事件における中国政府の対応が国際社会、とりわけ欧米諸国から厳しく批判されていた時期に当たりますから、当面の難局を乗り切るための便法(例えば、欧米の批判に反発して国内の排外的ナショナリズムが噴出し、それが欧米の更なる批判を招くことを防ぐ、というような)かもしれませんが、「意図と能力を隠す」ということ自体が長期的な戦略であるのかもしれません。いずれにせよ、冷徹なリアリストの言であるというべきでしょう。


1997年の行政改革会議「最終報告」は、国政における「総合戦略機能」を強化するため内閣機能の強化策を提言し、これが法制化されて2001年からスタートしています。また、このたび成立した鳩山内閣は、「国家戦略局」の設置を予定しています。「戦略」という軍事用語からは大軍を動かす勇ましいイメージが浮かびますが、実際には、何をあきらめ、何を行わないことにするかという苦しい判断こそ、その中核をなすものかもしれません。鄧小平の24字戦略は、こういった意味でも興味深いものだと思います。


2009年12月号掲載

熊本県警察 本部長
荻野 徹

栃木県出身、昭和33年5月27日生、昭和57年3月東京大学法学部卒、同年4月警察庁入庁、平成8年12月行政改革会議事務局、10年7月内閣法制局参事官、12年8月警察庁総務課企画官、14年8月警視庁第一方面本部長、16年10月米国ハーバード大学客員研究員、17年8月内閣参事官(内閣官房副長官補付)、19年8月国家公安委員会会務官、21年3月現職

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