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財政問題を考える上での視座

筆者は最近、日本の財政問題について、南九州の各地で話をする機会が多い。その際、少なからぬ聴衆から、日本の財政赤字の問題については、新聞等でよく危機的であると言われる一方で、消費税引上げは2回 に亘って延期出来ているし、モヤモヤしてなかなか腑に落ちないといった疑問を呈されることがある。

財政問題は、確かに各論に入れば多岐に亘り、複雑ではあるものの、その本質は意外とシンプルである。本稿では、財政問題の本質を考える上での視座について、私が個人的に整理したラインでいくつかお示ししたい。

まず、財政赤字の現状をおさらいしてみる。バブル経済の崩壊以後、財政支出が伸びる一方で、税収は経済の低迷等から伸び悩んでいる結果、四半世紀以上に亘って毎年、30~40兆円規模の巨額の借金を続けてきた(図1)。それが積もりに積もって直近では国債残高が1000兆円を超え、日本の債務残高対GDP比は、GDP500兆円超の250%にまで悪化している(図2)。

図1 図2

ちなみに、この債務残高対GDP比は、世界的に見て断トツに悪い数字であり(ギリシャが180%である以外は、悪い国でも140%程度以下)、国内的に見ても第2次世界大戦の非常時の200%超という数字を上回っている(図3)。

図3

財政赤字が蓄積した要因を分析してみると、急速な少子高齢化の進展に伴う社会保障支出の増大が最大の要因となっている。社会保障以外の政策的経費は、相当に切り詰めており、この四半世紀でほとんど増えていないように(図4)、実は無駄がないと言える。

図4

加えて、日本の場合、国際的に比較して、社会保障の支出水準に比し、負担水準が実は低い(図5)。支出水準と負担水準とがバランスする図の45度線から、現状どんどん乖離するベクトル上にある。国民が享受する社会保障のサービス水準に見合った負担となっていない結果、その差の分だけ構造的に赤字が生じてしまう訳である。この社会保障の収支問題の解決がポイントであり、それが是正されないと、いつまでも財政問題が解決しないし、社会保障制度の持続可能性も危ぶまれてしまう。ちなみに、社会保障の収支を均衡させることは、紙面の関係で説明は省くが、巷間よく言われる「プライマリーバランス」(基礎的財政収支)を、現在の赤字から均衡させることに通じてくる。

図5

次に、日本の財政状況が深刻であるにも拘らず、なぜ問題が顕在化しないのか。それにはいくつか要因があるが、国債を購入している国内投資家が「日本の国債を買ってもデフォルトはない」と考えていることが大きい。なぜそうかと言えば、政府の場合、民間会社と異なり、法令に基づく「徴税権」がある。特に日本は、まだ消費税率は8%と低めで、政府が国民の理解を得ながら、いよいよ本格的に財政再建に乗り出せば、まだ再建が可能だと、投資家が見ているからだ(ちなみに、日本と同程度の社会保障支出水準の欧州諸国の消費税率は、いずれも20%以上)。しかしながら、このまま財政赤字の増大を放置していると、どこかで財政再建が困難となる「臨界点」を超えてしまう。その瞬間に、国内投資家が日本国債を買おうとしなくなる結果、財政は行き詰ってしまうこととなる。

それでは、財政を再建するための方策は一体何か。それは、各論はともかく方向性は明快で、世界最悪の債務残高対GDP比の数字を下げれば良い。具体的には、分子の債務残高を小さくするべく毎年の財政収支赤字を抑え(=①社会保障支出等歳出の合理化・縮減、②消費税等歳入の拡大)、分母のGDPを大きくするべく③成長戦略ないし構造改革を進めることだ。日本のように財政状況が悪化してしまうと、この3つの方策をすべて同時に取らないと間に合わないと考えられる。

ちなみに、②歳入の拡大に関連して、なぜ消費税の引上げが言われるかと言えば、それは、所得税や法人税のように、景気の振幅で税収がぶれることがないため、社会保障制度を安定的に支えることが出来ることがある(図6)。また、社会保障負担は、一般に現役世代に重くなるが、消費税は年齢を問わず均しくかかることから、現役世代への負担の偏りを回避することが可能となる。

図6

なお、消費税のデメリットとして、低所得者に負担が重くなる所謂「逆進性」の問題があるが、これは、軽減税率の適用(食料品等の生活必需品に係る税率を低く据え置き)等により対応することとなる。


本稿が日本の財政問題を考える上での一助になれば、幸いである。

2018年2月号掲載

財務省 九州財務局 局長 佐藤 正之

財務省
九州財務局
局長
佐藤 正之

昭和39年(1964年)生まれ。東京大学経済学部卒業後、旧大蔵省に入省。OECDトレーニー、八代税務署長、在ジュネーブ日本政府代表部一等書記官、中小企業庁小規模企業参事官、内閣府 予算編成基本方針担当参事官、財務省関税局参事官、関東財務局総務部長、日本たばこ産業株式会社副CFOを歴任。現在は、財務省九州財務局長

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