熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

グローバル化時代の大学改革

このグローバル化の時代——こう書くと、トランプ政権の「米国第一」の通商政策でグローバル化は頓挫しつつあるではないかと思う人もあるだろう。それは全くの的外れではない。トランプ政権のきわめて近視眼的な通商政策で米中貿易戦争が始まるかもしれないし、そうでなくとも、国によっては、制裁の恫喝に怯えて、米国に譲歩するところもあるだろう。

しかし、グローバル化(グローバリゼーション)とグローバル主義(グローバリズム)は区別して考えた方がよい。グローバル化とは、ヒト、モノ、カネ、情報がますます大量に国境を超えて流通するようになることである。それが自国の利益になると判断して、グローバル化を政策的に推進しようとするのがグローバル主義である。グローバル主義は冷戦終焉以降、30年近くにわたって、米国の対外経済政策の基本的方針をなした。それがいま、大きな転機にさしかかっている。トランプ政権の通商政策はそれを示している。しかし、それでも、グローバル化は技術進歩とともにこれからも進展する。我々の生活も、それとともに、変わっていく。

第一次グローバル化は19世紀前半にはじまった。蒸気機関の登場とともに、大量のモノの輸送が可能となり、これが生産と消費の空間的分離をうながし、先進国と後進国を生み出した。工業地帯はこのとき生まれた。第二次グローバル化はファックス、コンピュータ、インターネット等の情報通信技術の登場とともにはじまった。大量の情報を瞬時に伝達することが可能となり、生産プロセスそのものが分解されて、研究開発、技術の詰まった部品の生産、組み立て、マーケティングなどの「仕事」が、それぞれの「仕事」に比較優位をもつ別の国で行われるようになった。これが国境を超えた生産ネットワークを生み、生産ネットワークをうまく招致した国々が新興国として登場した。
 では、これからどうなるのか。A.I.(人工知能)、 IOT(モノのインターネット)、ロボティックス、ブレイン・マシーン・インターフェイス(脳波で機械を操作する技術)などの技術進歩とともに、グローバル化はますます進展する。その結果、モノの生産はもちろん、経理ほかのバック・オフィスの仕事もますます機械がするようになるだろう。医療、教育、金融などの仕事の内容も確実に変わる。
 では、この時代、大学はどうすればよいのか。なにをすれば、大学は社会の期待に応えられるのか。

アイデアがあらゆる分野でますます重要となることは確実である。こんなものがあればいいな、あんなことができればいいな、と考え、そのアイデアをかたちにする。イノベーションはそこからはじまる。言われたことを確実にこなす人ではなく、自分で何かを考え、それをかたちにする、そういう人を育てる。また、そういう人を支援するネットワークを提供する。これはおそらく大学の仕事だろう。では、どうすれば、それができるのか。それが課題と思う。


2018年5月号掲載

公立大学法人熊本県立大学 理事長 白石 隆

公立大学法人熊本県立大学
理事長
白石 隆

Ph.D(哲学博士)(コーネル大学)。文化功労者。専門は地域研究(特に東アジア政治及び国際関係)。東京大学教養学部助教授、コーネル大学アジア研究学科・歴史学科助教授、准教授及び教授、京都大学東南アジア研究センター教授、政策研究大学院大学副学長、同学長等を経て現職。その他、内閣府総合科学技術会議議員、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所所長等を歴任。1950年生まれ。

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