一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

「強制労働」と「ノルマ」

ロシアのウクライナ侵攻が始まって7か月が経った現在(9月末)、ロシアの「特殊作戦」の完了が一向に見通せないばかりか、ウクライナ側の反攻に後退を余儀なくされたロシアは、予備役30万人の動員を決め、さらには侵攻地域の併合を発表した。これによりこの戦争がどのような展開になるのか。その結果がさらに多くの犠牲を生むだけでなく、核兵器の使用などさらに深刻な状況を招くことが懸念される。
 一方で、ロシアでは抗議活動や招集逃れの国外脱出などが続いており、ロシア国内の情勢も不安定さを増しているようだ。

そんな報道として、「『腕を骨折する方法』のロシア国内でのネット検索数が急増した」という記事を見て、私は父が遺した手記の一節を思い出した。

父は昭和20年の終戦を満州で迎えソ連の捕虜となり、翌21年の初夏から現在のウクライナ・ドネツク州に隣接するロシアのタガンログという街での2年間を収容所で生活した。
 今話題のドンバス地方は、ドイツ軍とソ連軍の激しい戦闘があった地域で、ソ連は戦後復興のために捕虜の日本兵を駆り出した。そこで父も破壊された工場や建物等の復旧のため様々な作業に従事した。

その間の収容所生活と帰国までのあれこれを父はノートに書き残していた。その中には、日々の作業~いわゆる「強制労働」と「ノルマ」について多くのことが書かれている。
 例えば、1日の目標作業量(ノルマ)の達成が困難な場合も多く、量をこなすことができなければその日の食事の量が減らされる。結果、さらに能率は落ち疲弊し病んでいく者も出る、とか。頑張って目標の作業量をこなしても、現場の監督は「もっとやれ」と休ませてくれない。それで次第にやる気も失せてくる、などなど。

しかし、それは捕虜だけの話ではなく、現地の底辺の労働者も似たようなもので、こんなことを書いている。
 「飛行機工場にいた若いロシア人は、『俺はもう仕事したくない。無断で休めば処罰されるからケガさせてくれ。ケガすれば無条件で休める』と、親指の上に斧を乗せ、ハンマーで叩けと我々に言うのだ。断って誰もやらないと、翌日は親指に包帯を巻いて痛そうな顔をして出て来た。」
 ノルマをこなせないと給料が減らされるのは当然、あるいは逮捕される者もいたという。

ところで、この「ノルマ」という言葉は、旧ソ連邦の収容所生活を送った復員兵から広まったロシア語だが、ノルマによる生産活動の管理が能率低下や不正を生み、計画経済の破綻に、そして結局はソ連邦の崩壊に繋がったとも言われている。

父は書いている。「働け働け、働かんと飯は食わせんぞ、ではいい働きは出来んのである」と。

今風に言えば、モティベーションとインセンティブが重要だということだが、今は、願わくば、「国を守り抜くのだ」という大義のために士気(モチベーション)が高めるウクライナ兵に「いい働き」をして欲しいと思うのである。

2022年11月号掲載

熊本県信用組合 理事長

熊本県信用組合 理事長
出田 貴康

昭和31年12月16日熊本市生まれ、昭和55年九州大学法学部卒業、同年熊本県庁入庁、平成24年商工観光労働部政策審議監、平成26年東京事務所長、平成28年会計管理者、平成29年3月退職、同年4月から令和3年6月まで肥薩おれんじ(株)鉄道代表取締役社長、令和4年6月より熊本県信用組合理事長 

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