一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

今こそ日本的経営の良さを再認識しましょう

3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は国内史上最大規模のものでした。まずは、犠牲になった方々や被災者の方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。今回の地震は津波とそれに伴う原子力発電所の事故によって東日本に大きな災厄をもたらしています。この原稿を書いている時点で復興に必要な資金は16 ~ 25兆円と言われていますし、今後、電力不足が日本経済に与える影響も大変なものになるでしょう。


ところで、私の専門は労務管理です。ヒト、モノ、カネ、情報という4つの経営資源のうち、ヒト(人間=従業員)を対象とする分野で、人事管理あるいは人的資源管理と呼ばれることもあります。第2次大戦後、奇跡の復興を遂げ、先進国の仲間入りを果たした日本の原動力はやはりヒトだったと思います。


東京大学の藤本隆宏教授は、3月29日付の『日本経済新聞』で日本の現場の強さに言及しています。教授は、今回の地震による被災地の復旧現場、生活現場(コミュニティー)、生産現場等の秩序・互助・対策・実行の水準の高さと、それと対照的な一部企業や政府の中枢のもたつきを指摘し、官民双方における、日本の「強い現場・弱い本部」症候群が、全世界に再認識されたと主張します。ここでいう現場とは、長らく日本の強みといわれてきた製造業(ものづくり)にとどまらず、生活現場やサービス現場も含まれますが、私はこのような強い現場を支えた要因のひとつに能力主義があったと思います。


企業がヒトを管理しようとする時、その基準はひとつではありません。戦後の日本を振り返っても、年齢・勤続年数、職務、能力、成果などさまざまありましたが、能力が正式に使われ始めたのは1960年代後半以降でしょう。その際、道具となったのが職能資格制度でした。職能(職務遂行能力)はゆるやかながら企業の業績とつながっているので、人件費の抑制という点からメリットがあります。また、配置転換されて職務(仕事)が変わっても職能は変わらないので、いちいち賃金を上げ下げする必要がありません。そして、高い処遇(高賃金や昇進など)を得たいと願う従業員には、自らの能力(職能)を伸ばそうとする強力な動機づけ(モティベーション)が働くことになります。


90年代初頭のバブル経済の崩壊によって、日本でも成果主義が注目され、実際多くの企業で導入されました。たしかに激烈な国際競争下では、企業に従業員をじっくり育てる余裕がなくなり、短期的な業績を求めてしまうのは無理ないかもしれません。しかし、やはり常日頃から従業員の能力向上に努め、それが長期的には安定した企業業績に結びつくというのが王道ではないでしょうか。成果=能力×意欲という、労務管理の世界でよく知られている式からも、そのことは明らかだと思います。大震災からの復興は長い道のりになるかもしれませんが、今ここで先人達が作り上げてくれた日本的経営の良さを再認識することが必要だと思います。


最後になりましたが、私どもの産業経営研究所は一昨年(2009年)、設立50周年を迎えました。今後も産業・経済に関わる調査研究と地域貢献という責務を果たしていく所存でございますので、よろしくお願いいたします。


2011年5月号掲載

熊本学園大学付属産業経営研究所 所長 今村 寛治

熊本学園大学付属産業経営研究所 所長
今村 寛治

昭和35年鹿児島県生まれ。
平成2年九州大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、 平成13年より熊本学園大学商学部教授。博士(経済学)。
日本労務学会理事

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