各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
企業経営の倫理性と社会性
コーポレート・ガバナンス(以下、CGとします)とは、端的に言えば「会社の舵取り」のことです。それは、①不祥事の防止と、②競争力をつけて企業業績を上げることを目指しているものと考えてよいと思います。そのためのCGの問題には多くの側面がありますが、ここでは、コンプライアンス問題に関連させながらCGについて少し、思うところを記してみようと思います。
コンプライアンスとは法令遵守と言われますが、そして当然それは間違いではありませんが、コンプライアンスの本義は「社会の期待に誠実に応えること」です。そこには、単に法令遵守のみならず“企業倫理”も含まれています。この企業倫理には、野村総合研究所の伊吹英子(*1)氏によれば、「守りの倫理」と「攻めの倫理」があると言われます。「守りの倫理」とは“外部の力によって社会的責任活動をやらされている状態あるいは段階”であり、「攻めの倫理」とは“企業活動によって社会に正の影響をもたらす取り組み”です。この点からしますと、法令遵守は「守りの倫理」に近いでしょう。現今、企業に求められていますのは「守りの倫理」は当然のこと、「攻めの倫理」であります。なぜならば、それは、本業をもって社会的問題を解決する良い商品・サービスを提供して社会に貢献するとともに、これを通じて競争力をつけて企業業績を上げ、企業の、そして社会の持続可能性を高めるものとみられるからです。この二つの倫理を推進することによって、コンプライアンスの本義やCGの目指す二つの事柄をより確かに実現できるものと思われます。
さて、本学大学院商学研究科の開講科目の中に「ビジネス倫理」という科目があります。そこには、実は、熊本県中小企業家同友会の経営者の方々に特別ゲスト講師として来ていただいています。今年で5年目です。この間、代表理事をはじめ15名の経営者の方々にお願いできています。実に多彩な経営者の方々であり、当然お話の内容は異なっています。しかし、中小企業家同友会には共通の理念があり、そしてそこには企業経営にあたっての倫理性がおかれており、それを基礎としながらそれぞれの企業にあって経営理念、経営目標、経営戦略、経営計画を構築され事業を展開されているようです。私も拝聴させていただきながら感じていますことは、経営者の方々の従業員の意識、感覚、創意工夫、また顧客の意識、さらには社会情勢への感度の高さです。これはコンプライアンスの本義やCGの目指す二つの事柄に繋がることであると思います。
周知のように日本の企業の99%は中小企業でありますが、大企業も含め企業は、総じていわば“社会性”を帯びていると考えられます。その使命は、P.F.ドラッカー(*2)の思想に集約されていると思いますので、それを記しておきたいと思います。すなわち、こうです。企業・経営者は、「現在はもとより、来るべき永い将来にわたって、経済や社会やその中に生きる個々人の生活を規定」しており、「財産の所有に関して伝統的に考えられていた私的な責任をはるかに超えるもの、むしろそれとは全く性質を異にする新しい責任」を有している。「公共の利益と事業の利益とを一致させ、社会的利益と私的利益との調和を図る」ことが必要である。これは困難な仕事であるが、「道徳的、永続性のあるよき社会」を実現するためには果たされなければならない仕事である。
ここに、CGが良いCGでなければならない理由があると思います。
*1 伊吹英子「経済教室」『日本経済新聞』2004年5月28日朝刊
*2 P.F.ドラッカー、野田一夫監修・現代経営研究会『現代の経営-下』ダイヤモンド社、1965年
2013年12月号掲載
熊本学園大学 商学部教授
貞松 茂
昭和24年4月3日生まれ。佐賀県出身。
経営学博士。昭和58年3月西南学院大学大学院博士課程単位取得満期退学。平成15年西南学院大学大学院博士課程修了(明治大学にて博士号を取得)。昭和60年4月より7年間、徳島文理大学短期大学部経営情報学科に在籍し、平成3年より熊本商科大学(現熊本学園大学)商学部に在籍、現在
に至る。この間、熊本商科大学商学部第二部商学科長、熊本学園大学大学院商学研究科長に就任
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