各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
ドイツから学び熊本から発信しよう
最近、ドイツのニュースに接することが少なくなった。強いて探せば、メルケル首相、高級ドイツ車、ギリシア危機対応あたりだろうか。私は長年、ドイツを対象にして経営史や技術史を研究してきたので、ここではドイツとの関連で熊本のことを考えてみたい。
ドイツと聞いて何を連想するかと学生たちに問いかけると「サッカー」との答えが多い。戦前の日独伊協定まで遡らなくとも、敗戦と経済復興で似たような歴史を共有するため日本人は長い間ドイツを身近に感じてきたが、近年、急速に縁遠くなった感じがする。だが、ドイツから学ぶべき点はまだ多い。例えば、本年2月11日に熊本学園大学社会福祉学部20周年を記念して認知症に関する日独シンポが開かれた。認知症の人の意思を尊重しつつ在宅で継続的に包括支援を行っているドイツの事例から、日本の参加者たちは大いに教えられたようだった。
いまドイツでは「インダストリー 4.0」という言葉がよく使われている。これは産業発展の歴史を振り返り、1800年前後の「第1次産業革命」、1900年前後の「第2次産業革命」、そして1970年代からの「第3次産業革命」を経て、現在「第4次産業革命」の時代を迎えつつあるという意味だ。第3次までの産業革命を象徴するのは蒸気機関、自動車、コンピュータであるのに対し、現在の産業革命の象徴はインターネットである。換言するとヒト・モノ・カネがネットで繋がることで新たな経済・社会の仕組みが生まれつつあるということだ。ドイツはいま、産官学が連携してこの動きの先頭に立っている。
いち早く製造業から金融・サービス業へと産業の重点を移動させたイギリスやアメリカと比較すると、ドイツは今でも手固いもの作りの伝統を維持している国だ。そのようなドイツ経済の特徴を示す言葉として「隠れたチャンピオン」というキーワードがある。これは、高圧洗浄機のケルヒャー社やチェーンソーのスチール社などのように、ある特定の小さな市場で世界を相手にモノをつくっている企業を指す。ドイツの企業家活動の特徴は、一方では歴史を誇る大企業の存在と、他方では誇りと伝統をもつ中小企業が地域にしっかりと根付きながら世界市場を相手に独自性を示していることにある。
日本でも地域に根ざした中小企業こそが新しいイノベーションの原点となるだろう。国による上からの地方創生だけではなく、地域にしっかりと立脚した中小企業が連携しあって、新しい財やサービスを生み出していくことがその鍵になる。その際、ドラッカーが指摘しているように、イノベーションとは決して技術革新だけを意味するのではない。理工系や医薬系の世界だけでなく、それらと人文系、社会科学系の知識との組み合わせの先に新しいイノベーションがあるのだろう。
熊本に目を移すと、熊本は広い平野があり、豊富な水があり、明治以降の文教都市の伝統で育まれた研究教育インフラと多様な人材が集積しているところである。カネの面が弱いかもしれないが、ネットを通じてエンジェル投資家を募ることが可能な時代を迎えている。資金は簡単に地球上を移動できるが、土地は動かせないし、人の移動もさまざまな制約がある。幸い、熊本の若者は「郷土愛」を持った人が多い。これらの好条件を生かして熊本発のイノベーションを世界に発信していきたい。
2015年4月号掲載
熊本学園大学 学長
幸田 亮一
1954(昭和29)年生まれ。美里町出身。 長崎大学経済学部卒‐京都大学大学院経 済学研究科修士課程修了‐同博士後期 課程退学、京都大学博士(経済学)授与。 1996年から熊本学園大学商学部教授。 同大学では商学部長、大学院経営学研究科長を歴任、2014年8月に学長就任。専門は経営史
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