各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
新たな「肥後物語」の 出現を待つ
熊本城をはじめとして、熊本には貴重な歴史遺産が数多く残っていて歴史ドラマの撮影が行われることも多いのに、熊本の歴史そのものがドラマなどで描かれることはほとんどないのはどうしたことか・・・こうした思いを持っている方は多いのではないでしょうか。
昨年末に放送を開始して好評をいただいているNHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」(司馬遼太郎原作)では、宇城市の三角西港を明治期の横浜港に見立ててロケが行われましたし、熊本大学の五高記念館の赤レンガの建物では、陸軍大学校校長・児玉源太郎(高橋英樹さんが演じています)が登場する重要なシーンの撮影が行われました。また、昨年の大河ドラマ「天地人」では、なんと大坂城で直江兼続が秀吉と対面するシーンが熊本城で撮影されました。当時の大坂城のたたずまいを今最もよく残しているのは現在の大阪城ではなく熊本城なのだそうです。
その一方で、熊本の歴史それ自体を扱った歴史ドラマがあったかというと残念ながら思い当たりません。このことはお隣りの鹿児島と比べるとはっきりします。鹿児島はNHKの大河ドラマだけでも平成になってから「翔ぶが如く」(平成2年)と「篤姫」(平成20年)の二度にわたり主舞台になっているし、映画などでも物語の舞台として選ばれることが多いように思います。
それはなぜなのか、理由はいくつかあるのでしょうが、一つは私は熊本と鹿児島のイメージの鮮明度の違いではないかと考えています。私は鹿児島の出身でして、だからといって決して自慢して言うのではありませんが、鹿児島という土地の歴史的イメージはとても鮮明かつ単純です。「島津斉彬」「磯庭園」「西郷隆盛」「示現流」「芋焼酎」「私学校」「桜島」などといった鹿児島のイメージを構成する具体的要素は互いにうまく連携して、全体として「質実剛健」というイメージを鮮やかに織り成しています。
そこへいくと、熊本の場合、「加藤清正」「熊本城」「細川三代」「水前寺公園」「水資源」「夏目漱石」「阿蘇」「天草」「球磨焼酎」などといった各要素はそれぞれ個別には相当に魅力的なのですが、これらが連携して一つの何らかのイメージを形づくるかというとそうではなく、全体としては今ひとつとりとめがない感じです。
こういう一見バラバラな要素を結び付けて全体を連携させ、一つのシンプルで力強いイメージを浮かび上がらせるにはどうすればいいか、私はそれは「物語」の役割だと思います。熊本の様々な魅力的要素を再構成し、熊本という土地をドラマティックに生き生きと描き出す、新たな「肥後物語」をどなたか書いてくれないものでしょうか。地元で大ブームになって、それを原作にしたドラマや映画もできる。そうすると、他県の人から見た熊本のイメージももう少しクッキリした分かりやすいものになり、それを自分の眼で確かめようと観光に訪れる人も増えるのではないでしょうか。
もっとも、外から見ると全体としてのイメージをつかみにくい熊本は、その分、内側にいるととても住みやすいところではないか、とも思います。というのは、鹿児島出身です、と言った途端、他県の人から「焼酎がお好きなのでしょうね」とか「自分のことを『おいどん』と言うのですか?」とか、単一のイメージで決めつけられることが多くて、私自身がいつも閉口しているからです。多様な個性、意見が一つの色に染められることなく混在しているというのは、そこに住む人にとっては、とても自由で暮らしやすい風土だと思えないでもありません。
2010年2月号掲載
NHK熊本放送局長
畠山 経彦
昭和28年8月鹿児島市生まれ、53年東京大学法学部卒業、53年NHK入局鹿児島放送局、58年本部・番組制作局、平成3年、 大阪放送局文化部、6年本部・人事部、10年本部・番組制作局、17年本部・編成局、19年6月熊本放送局
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