各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
お客さまの本音を聞いて 変化に対応
私が町長を目指したのは、民間で働いた経験を活かして、仕事の場を増やしたいという強い思いからでした。しかし、仕事を増やすことは本当に難しいと痛感している中で、皆様が様々な課題を乗り越えて事業を続け、雇用を守っておられることに心からの敬意を表する次第です。
30年ほど前、日本の製造業は安い労働賃金に惹かれ中国へ工場を移して行きました。私も精密製品の国内生産を中国の広東省に移す仕事を行いました。組み立て工程ごとの手順や注意点を、日本語から英語に、英語から中国語へと通訳しながら現地の作業員に教えます。作業員からはその逆の順序で質問されます。時間もかかりますが、それよりも肝心なところがうまく伝わりません。それでも粘り強く教えて行きました。中国は旧正月の春節が大型連休で皆帰省します。するとどうなるか。30%くらいが帰って来ない。帰省の時に情報交換して少しでも高い賃金の所に勝手に移って行きました。日本から一時的に応援者を出張させ不足の工程をカバーしながら、再度作業員を一から教育しなければなりません。この様に不安定な作業員で組み立てた製品ですから、日本に届いたすべての製品をもう一度、品質に問題がないかチェックすることになり、組み立て工賃が安いと中国に移したメリットが無くなる状況でした。他にも色々と苦労がありましたが、今では中国の労働賃金が上昇し、ベトナムやカンボジアへのシフトが進んでいます。
一方で家電メーカー技術者の夢の商品であった薄型テレビは、部品の小型化、デジタル化によって実現しました。ところが、デジタル化されるとメーカーごとの商品の差別化が難しく、韓国や中国のメーカーとの価格競争で苦戦しています。日本の高度成長期はどこの家電メーカーも元気でしたが、現在では事業内容を大きく変えて立ち直って来ているメーカーもあれば、事業を特定の分野に集中していたことから、他の分野への切り替えが出来ていないメーカーの経営は非常に厳しい状況です。
私は米国をはじめ欧州や東南アジアの国にも、仕事で行く機会が何度もありました。その様な外からの目で地元の商店や飲食業の取り組みを見ていますが、非常に気になっている・・・というか心配です。お客さまの総数の変化、年齢別客層の変化など、お客さまの求める内容が変わって来ています。そのことを敏感に感じその変化に対応する努力をしているか。私は変化に応じて変わって行こうという取り組みが弱いと思います。料理店なら時々お客さまの声を聞くようにする。味はどうか、料理の構成はどうか、料理のボリュームはどうか。自分の会社や店で伸ばせるところはどこか、思い切って切り捨てるところはどこか。徹底してお客さまの本音の意見を聞き、他と差別化し独自の価格で勝負出来る様にして行く。
経営者の方々はこのことは分かっている。分かって居るけど様々な事情でやれていない、踏み切れない、ということでしょうか。
しかしながら、日本の高度成長の一翼を担った大手家電メーカーの現状を見る時、変化を受け止め、早め早めに手を打っていくことの大事さをひしひしと感じるのです。
尊敬する松下幸之助氏の言葉に『成功しないのは成功するまで続けないからだ』とあります。お客さまの本音を聞き、変化を先取りして、日々前向きな活動で事業を発展されるとともに、地域の活性化にも大きく寄与頂きますことを心より祈念しております。
2016年3月号掲載
あさぎり町長
愛甲 一典
昭和22年7月22日生まれ。同45年福岡工業大学電気工学科卒。同4月に九州松下電器(株)入社。オフィス用精密機器の開発・製造・販売の部門長等を歴任。59歳で退職し、平成19年故郷あさぎり町長選挙に初当選し現在3期目
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