各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
社員は「内なる顧客」
現在、私が所属している、熊本学園大学商学部ホスピタリティ・マネジメント学科は、「おもてなしの心を持った人財育成」を教育目標に掲げている。ホスピタリティ・マネジメントとは「あなたも喜び、私も喜ぶ」マネジメントスタイルのことであり、「もてなす側」と「もてなされる側」が、対等な立場で双方向のコミュニケーションを通して満足感を共有するというものである。すなわち、ともに喜び合うマネジメントである。
サービスの概念が、顧客の意思が最優先され、上下関係で義務的に奉仕する一時的な主従関係だとすれば、ホスピタリティの概念は、「主客同一関係」だといえる。また、サービスが標準化のためにマニュアルに向かうのに対して、ホスピタリティはマニュアル化できないものである。マニュアルは最低限のサービスを最大公約数的対応で提供するものであるが、ホスピタリティは相手によって、状況によって、その都度、対応の内容を変えていかなければならない、極めて高度な行為である。
一度味わった感動は次からは当たり前になってしまうので、常に自律的対応を高めていかなければならない。この意外性から生まれる喜びや感動こそがホスピタリティなのである。さらに、サービスが人と人との関係に「お金」が介在する等価価値交換であるのに対して、ホスピタリティは純粋な「人と人とのふれあい」から生じる付加価値交換であるといえる。この意味において、ホスピタリティはサービスを超えたところにあるものである。
顧客が感じるホスピタリティとは、直接的には、言葉遣い、身だしなみ、コミュニケーション能力といった部分に現れるであろうが、それに加えて高い教養と専門知識が求められる。なによりも、自分の仕事に対する誇りや自信、そして喜びがなければ顧客満足度を高めることはできない。自分の仕事に満足していない人が、顧客を満足させることはできないであろうからである。この意味で、企業は顧客満足度に加えて、従業員満足度を高める必要がある。
従業員満足度とは、従業員を企業内における顧客、すなわち「内なる顧客」としてとらえ、「従業員満足なくして顧客満足はありえない」という考えから、従業員を最先端の顧客ととらえるものである。従業員満足度を高めるためには、単なる報酬面だけではなく、企業内における上司や同僚との対等なコミュニケーションにより、共通の価値観を有する必要がある。いわば、「内なるホスピタリティ」である。身近で働く者同士にホスピタリティが備わっていなければ、顧客に対するホスピタリティは生まれてこないからである。
近年、新入社員の3割が3年以内に会社を辞めているといわれているが、その原因の多くが上司とのコミュニケーション不足、企業内の仲間同士の接し方にあるともいわれている。経営陣の意識改革によって「内なる顧客」という考え方のもと、魅力ある仕事を提供することによって従業員満足度を高めることができれば、自然な形でモチベーションを呼び覚ますことができる。従業員満足度が高まれば、離職率の低下にも繋がるであろう。
情報社会が進展する中で、改めて人間らしい対応が見直されている今日、ホスピタリティ・マインドを持った人財育成が求められている。
2016年10月号掲載
熊本学園大学 副学長
林 裕
昭和62年熊本商科大学(現熊本学園大学)着任。商学科長、ホスピタリティ・マネジメント学科長、商学部長、教学部長を経て、現在、熊本学園大学副学長(学術研究・国際交流担当)。保険論専攻
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