一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

経営について思うこと

農林水産省大臣官房検査部(現大臣官房検査・監査部)は、農協等の協同組合をはじめとして、土地改良区や中央卸売市場の卸売業者、農業や漁業の共済組合連合会、先物取引業者等に対する法定検査を行う部署である。検査部では、検査官の検査能力向上のため、自己啓発として各種通信教育等を受講し資格の取得を奨励している。その対象は検査官にとどまらず、課長、部長にも及び、当時部長だった私は中小企業診断士を選択し、2年前に登録した。中小企業診断士の視点を持ちつつ農業をみて思うところを幾つかお話しする。

近年、農政では農業者とりわけ担い手農業者に「経営マインド」を醸成してもらうための施策を充実させている。平成24年に経営改善のための「新たな経営指標」を公表し、平成26年に閣議決定された「農林水産業・地域の創造活力プラン」で『経営マインドをもつ農林漁業者の育成』が謳われ、農業経営塾等の施策が講じられている。「経営」に必要な素養を備えてもらおうということである。

家族経営であれ法人経営であれ、経営には経営理念を持つことが重要である。明文化しないまでも、将来の姿をしっかり描き、その姿を家族や従業員に見せることが事業の継続にも資するが、農業では経営理念を持つことがどれだけ進んでいるのであろうか。

経営では経営戦略・経営計画が必要となる(少なくとも融資を受けるためには必要となる)。そのために外部環境、内部環境の分析が求められるが、農業でも他産業と同様にマクロでの外部環境の分析、具体的には、PEST(Politics(政治)、 Economy(経済)、Society(社会) 、Technology(技術))について分析が必要と考える。
・「政治」…グローバル化や農政の大転換が進む現在、これらへの対応が経営を左右するといっても過言では無く、制度改正等の情報を収集し、分析するこ とが求められる。
・「経済」「社会」…少子化や高齢化、働き方改革が消費に及ぼす影響、高齢農業者の離農による農地問題等の経営への影響について考えておかなければならない。
・「技術」…産業横断的に労働者不足が深刻な問題となっている中で、農業では外国人労働者に目が行きがちだが、不安定な外国人労働者雇用よりもICT・AIを活用した農業機械・農業施設について、積極的に利用を検討する段階が迫っている。

マーケティングでは、農業は事業者間競争よりも産地間競争の形態となることが多いため、競合(ライバル)の分析よりも顧客と農業者自身の分析に重点を置くことになるのではないだろうか。すなわち、自身の強みを活かし、「誰に」「何を」「どのように」販売するのかを考えることとなる。「誰に」とは、自身が生産した農産物を最終的に消費する顧客(エンドユーザー)である。「誰に」販売し、どのように消費され、どう評価されているのかの情報を得ることが重要である。流通段階における中間業者の評価は顧客の声の一部にすぎない。私は、担い手や若者の農業者との意見交換では、市場出荷中心としても、例えば直接販売など顧客の声を直接聞く窓口を持つことが重要と話をしている。

思うことを全て語ることはできないが、F.ドラッカーが「企業の目的は、新たな顧客の創造である。」と言うように、農業においても、経営の第1歩は、顧客を知ることと考える。

最後に、8月31日付けで退職するので、残念ながら、本稿が掲載される時には九州にはいない。しかし、九州に「経営マインド」を持つ農業者が溢れ、九州農業がますます発展されんことを願って私の提言とさせていただく。


2018年10月号掲載

元九州農政局長 石井 俊道

元九州農政局長
石井 俊道

昭和34年7月27日生まれ、島根県出身。京都大学卒。昭和57年4月農林水産省入省、平成16年7月総合食料局食品産業振興課外食産業室長、平成18年10月経営局協同組織課長、平成20年8月経営局総務課長、平成21年1月大臣官房総務課長、平成24年1月大臣官房検査部長、平成27年10月独立行政法人農畜産業振興機構理事、平成29年10月九州農政局長

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