各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
障がいのある子供たちの就労に向けて
―“幸せな存在”であるために―
現在、知的障がいの特別支援学校においては、在籍する児童生徒の増加、実態の多様化などに伴い、就労等に係る進路先確保が重要な課題となっています。
特別支援学校では、求人票が届かないこともあり、高等部在学中に1、2週間の「現場実習」を複数回行う中で、生徒本人の希望や適性と業務内容・職場環境等とのマッチングを行い、最終的な進路先を決定します。従って、「現場実習」の受け入れ先の開拓は、最重要事項であり、現在、各校の進路指導主事が県下3エリアのキャリアサポーターと連携しつつ、地域の事業所の一つ一つを回り、生徒の状況を丁寧に説明しながら相手先企業の理解と協力を得ているところです。また企業向け公開授業を実施したり、ハローワークや就労関係事業所等と連携し、雇用事例を提供するセミナーを実施したりするなど、障がいのある子供たちの理解や啓発の取組を一生懸命行っています。
そのような中、中小企業家同友会(障がい者雇用支援委員会)の企画による「支援学校と経営者の懇談会」は、企業と特別支援学校間の相互理解を深める貴重な場として機能し、新たな連携のきっかけとなっています。県教育委員会としても労働・福祉行政はもとより、企業関係者、福祉関係機関、大学教授等からなる「特別支援学校就労支援ネットワーク会議」を設け、各地域における取組を包括的に支援する連携体制の構築に取り組んでいます。中小企業家同友会副代表理事の吉田周生氏には、就労支援の充実に向け、貴重な御示唆をいただいています。
私が教鞭を執り始めて間もない頃、日常生活のほぼすべてを他者からの介助に依り、言葉による意思表示も難しい「重度重複障がい」のある子供たちの指導で、大変な不安と戸惑いを覚えたことを思い出します。その子供の視線や表情、体の微細な動きを捉えて、子供の内面の意識を感じ取ることで、自然と“言葉に依らない会話”ができるようになりましたが、そういったテクニカルな話とは別に、その時に、目の前の子供のことを“心からすごいと思ったこと”を強く覚えています。不思議なもので、その子供も、今までになく力を発揮し、できることが増えていきました。心からの尊敬に裏打ちされた賞賛や評価がどれだけ人の心に作用し、力を引き出すかを実感できた時期でした。
障がいのある子供たちの将来を考えるときに第一に願うのは「“役に立つ存在であること”を実感できる場で生きてほしい。」ということです。ある会合で知り合った企業経営者の方は、「障がいのある方は“物言わぬ先生”ですよ。」と話されました。決められたことをきっちり守る姿、誰と会ってもしっかりあいさつする姿、脇目も振らずに一生懸命働く姿など、障がいのある従業員が見せる姿により、周囲の従業員の態度や姿勢、意識が変わることで会社全体によい変化をもたらす状況を捉えて言われたものでした。その企業経営者の方の、直接的な生産性のみで計らない人の価値の見いだし方、そして人の生かし方、その裏にはその従業員に対する“心からの尊敬”があってのものだろうと考えています。
障がいのある子供たちが成長し、社会の中で生きていくには、何らかの保護や支えが必要であり、その意味では、 “一生涯育まれていく存在”なのかもしれません。ただ、その中でも“自身の価値を見いだされ、人から頼られ、当てにされる存在”であったとき、その人は幸せな存在になるのだろうと思います。そのためには、障がいのある子供たちの理解啓発を深め、“心からすごい”と思えるような連携が必要であり、このことがまさに中小企業家同友会の皆様と共に目指していくべき有り様ではないかと思っています。
2020年2月号掲載
熊本県教育庁教育指導局
特別支援教育課 審議員
宮本信高
昭和42年12月生まれ、人吉市出身、鹿児島大学教育学部卒業。
平成3年から熊本県立黒石原養護学校に勤務。
その後、肢体不自由養護学校2校勤務を経て平成21年に熊本県教育委員会事務局に勤務。
苓北支援学校、松橋西支援学校の2校で教頭を務め、平成31年4月から現職。
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