一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

“多彩”な本県農林水産業を見つめて

熊本県の農林水産業の特徴を一言で表すなら、“多彩”ではないでしょうか。その証として、いぐさ、トマト、すいか、宿根カスミソウが日本一、また、スギ・ヒノキの生産量が2位、マダイの養殖が2位、ノリの養殖が4位と全国に誇る産物が数多く存在します。これは、恵まれた水資源を生かし、山間地から肥沃な平野部、海岸島しょなど、変化に富んだ地形と西南暖地の気象条件を最大限に生かした結果であり、先達の礎のおかげであります。


四季折々に彩りが変わる山々、阿蘇の大草原に源を発する地下水をはじめ、シイ・カシ・クヌギや竹林に囲まれる里山からの清流が水田に流れこみ、稲穂をたわわに実らせます。やがて、水は大河となって海へ。豊壌な海には、タチウオやクルマエビなど、様々な生き物が生息しています。私達は、特に意識せず当たり前のように自然の恩恵を受けています。これがくまもとの原風景です。最近、よく“農山漁村の持つ多面的機能が薄れつつある”などと使われますが、分かりやすく言うと、これまでの眼下に浮かぶ農山漁村の風景が、殺伐としたものに一変するかもしれないということです。


また、一般的に、農林水産業は自然に抱かれ、水や緑の恩恵をそのまま受け入れている産業だと思っておられる方が多いが、これは誤解です。農林水産業の関係者は、自然に対し畏敬の念を抱きつつも、個々の生産活動に適するよう常に改良を加えるなど積極果敢に挑戦しながら、今の姿を確立してきました。例えば、農業では、江戸時代の干拓による農地の拡大。さらに、近年では、農地(水田)に、用排水施設を完備しビニールハウスを建てて、トマトやナスなどの施設野菜を栽培しています。林業は、川下の地域を土砂崩壊から守り、また、地下水等を育むとともに戦後の木材資源不足を解消するため、スギやヒノキなどの植林・間伐等に取り組んできました。水産業では、昭和50年代、獲る漁業からつくり育てる漁業に転換し、マダイやヒラメなどの養殖を盛んに行っています。


では、本県の農林漁業者を突き動かし、新たな挑戦をかき立てる源は何なのでしょうか。まずは、「生活の糧を得るため、稼ぐため」。これは、生業とする以上、当たり前のことと思います。外国も含めた産地間競争のまっただ中で、多大なリスクを背負いつつたくましく必死に活動しなければなりません。一方、現場を訪ねると、決してそればかりでないことにも気がつきます。それは、生きるアイデンティティーとして“地域”を背負う覚悟があること、それも単なるエリアとしてだけではなく、地域の文化や伝統の承継も担っています。これらは、集落・コミュニティの維持にもつながります。さらに、消費者を意識して、食料という命に直結した産業に“誇り”を持って取り組んでいるのです。


農林水産業は、単に時代の潮流に左右されるような産業としてだけでなく、消費者等の生活をしっかり支え、生命を育む産業であることを改めて認識する必要があります。私達行政に携わる者は、特にこのことをしっかりと受け止めなければならないと思っております。そして、「継続」を大切にし、将来に亘って安心して農林水産業に取り組めるよう、必要な支援を行っていくことが大事であると考えております。


熊本県中小企業家同友会の皆様方にも、農林水産業の現状等についてご理解いただき、これからも本県農林水産業の振興・発展に、ご支援・ご協力をお願いいたします。


2011年11月号掲載

熊本県農林水産部 部長 福島 淳

熊本県農林水産部 部長
福島 淳

昭和27年5月27日生まれ、
51年3月島根大学文理学部卒業、同年熊本県入庁、平成16年環境生活部廃棄物対策課長、19年玉名地域振興局長、 21年農林水産部次長、22年農林水産部総括審議員兼農業振興局長、23年農林水産部長

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