各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
震災からの復興・熊本の底力 -レジリエンスを超えて-
地域発イノベーション事例調査研究プロジェクトの編著『地域発イノベーションⅢ 震災からの復興・東北の底力』(河北新報出版センター)と題する一冊の本がある。2014年2月に刊行され、震災を乗り越えた(乗り越えようとしている)11社を事例として、各社の復興の軌跡を辿りながら、東北企業の底力を支えた要因を考察している。同書の内容から、熊本の復興に向けた、それぞれの企業のあり方を考えてみたい。
地域への恩返し、自社の未来に直結する地域の衰退への危機意識など、各々が抱く想いは様々であるが、震災からの復興は、企業と地域の繋がりの強さを改めて認識させる機会となった。「こういう土地にいる。地域の会社として何かしたい」とは、当時、震災の影響で失業率が75%以上に達した気仙沼に本社を置く(有)オイカワデニムの及川社長の言葉である。
そもそも彼らは、円高の進行や取引先の海外進出など、震災前から苦難に直面しており、それを乗り越えるための経営努力を積み重ねてきた。不断の経営努力によって培われたコアコンピタンス-技術やサービス、対外ネットワーク-は、震災によって容易に失われなかった。むしろ、それが復活の支点となった。「大丈夫、待っていますから」とは、津波で本社工場が全壊したヤマニ醤油(株)から支援を要請された際、同業を営む佐々長醸造(株)の佐々木社長が応じたひと言である。発災から、わずか3日のことであった。
原発事故の影響で、中東諸国まで営業網を広げた(株)フミンの八木澤社長は、次のように述懐する。「東日本大震災がなければ、こんな遠い国までこの商品を売りに行くとは思ってもいなかったですよ」。復活を果たした企業の経営者の多くは、「弱い紐帯」の構築に日常から努力し、それが、震災という非常時を逆に大きな転機と捉え、これまでの延長上にない決断を下す柔軟さへと結実した。前職での人脈や学友、勉強会など地域外の活動で出会った人々など、年に数回しか顔を合せないような希薄な人間関係のネットワークが、新しい情報、アイディア、チャンスを呼び込んだのである。
「石巻をもとに戻すのではなくバージョンアップする」。日本有数のシャッター通りと化していた石巻の駅前商店街、疲弊した元の街を「復旧」するのではなく、新しい未来を作りたい。震災は、東北の抱える課題やそれを解決したいという潜在的な想いを、魅力あるまちづくりを通じて「再生」する活動として表出させた。震災後、そんな想いを共有した有志によって、(一社)ISHINOMAKI2.0は生まれた。
レジリエンスは、しなやかさ、再起力、適応力などを意味する。近年、自然災害やテロなど悲痛な出来事のたびに使われる。東北企業を支えた底力の源泉は、各々の企業、とりわけ経営者の不断の努力もあるが、彼らを育んできた地域への想いであり、ともに集う人々であり、利害を超えたネットワークであった。震災は確かに理不尽で非情である。しかし、その非常時を逆にイノベーションの機会として捉え、再起を果たしてきた彼らの挑戦は、地域的な制約をも克服した道標となりうるのではないか。レジリエンスを超え、よりしなやかで力強い熊本の「復興」に向け、それぞれの企業の「革新」力が期待されている。
末筆となりますが、「平成28年(2016年)熊本地震」により、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。また、救援や復旧などの活動に尽力されている方々に深く敬意を表しますとともに、皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
2016年7月号掲載
熊本学園大学商学部経営学科
特任准教授
堀越 昌和
1969年5月生まれ。1992年3月新潟大学経済学部経済学科卒業、2011年9月東北大学大学院経済学研究科博士課程前期修了、2013年9月同課程後期修了(博士、経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)職員などを経て、2014年4月より熊本学園大学商学部経営学科、特任准教授。専門は、中小企業論、組織論
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