一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

AI技術のすすめ

昭和30年代、一般家庭にもテレビが普及して、いつもテレビの前にかじりついている子供をマスコミは「テレビっ子」と呼んだ。還暦を迎えた私たちの世代である。数ある番組の中でも、とりわけ、お気に入りだったのが、手塚治虫のアニメ「鉄腕アトム」だった。その中で展開されるストーリーや風景は、まさに「明るい未来」であった。大人になって、それが現実と遠く乖離したものと知ったが、懐かしい記憶が蘇る。
 1997年トヨタが初代プリウスを発売した時、「21世紀に間に合いました」と広告を打ち、御茶ノ水博士にハイブリット車の解説をさせた。ホンダがアシモを二足歩行にさせたのが2000年。そうだ、アトムの誕生日は2003年4月7日だった。

アトムの頭脳はAIである。今、AI技術が第4次産業革命を牽引すると言われている。一方で、AIがホワイトカラーの仕事を奪い、大量失業者を生む。と警戒する人も多い。AIによって、私たちの生活はどう変わるか、何に備えるべきかではなく、AIによって何を変えられるかを考えた方が建設的だ。

将来を予見するようなことが、囲碁界で起きている。2017年3月に世界トッププロが初めてAI囲碁に敗北をしたが、衝撃だったのは、その内容だった。大局観において、まさに完全敗北、横綱相撲での敗戦だったからだ。わずか2年間でAI囲碁が完全に人間の能力を超える存在と認識され、AIが打ち出した新たな手法をプロ棋士がマネをして当然となりつつある。また、一流プロを凌駕する実力のソフトが1万円くらいで手に入るようになった。勝負ごとは結果であり、勝ち負けを重視する。囲碁界は存続の危機と思われた。しかし、プロ棋士が失業する予兆すらない。囲碁界自体は新しい刺激を受け、むしろ隆盛しつつある。写真技術が誕生した時、絵画の世界で、ありのままに正確に描写することが絶対という価値観が崩れたものの、印象派のような絵画が生まれ、絵描きが失業しなかったように、生き残っていくのだろう。

AI技術は断片的な可能性が提供されるだけで、解説本が多い割に、実態を把握している人は少数と思われる。日本、特に熊本では、震災復興の人手不足を補う方策の一つとして、多様な労働現場で自動化を促し、生産性を飛躍的に向上させる分野が、先行して動く可能性が高い。怖がらず、まずは付き合っていくことだ。
 先日、NTT西日本熊本支店の1階に「IOTスクウェアくまもと」が開設された。県内企業等の生産ラインのデモ機などが展示されるそうだ。くまもと産業支援財団でも、今年、技術者研修「ひのくにIoT」で生産現場の身の丈に合ったAI化をテーマとした。まずは、AI技術が具体的にどのようなツールで、何をターゲットするかをイメージすることから始めよう。


2018年8月号掲載

公益財団法人くまもと産業支援財団 理事長 奥薗 惣幸

公益財団法人くまもと産業支援財団
理事長
奥薗 惣幸

昭和32年7月生まれ。昭和56年熊本大学法文学部法学科卒業。昭和56年4月熊本県庁入庁。平成24年4月産業支援課長、平成26年4月新産業振興局長、平成28年4月商工観光労働部長、平成28年7月(公財)くまもと産業支援財団理事長(現職)就任、平成30年3月熊本県庁退職。

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