一般社団法人 熊本県中小企業家同友会

特集

各界からの提言

各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ

連携による、生命総合産業誕生を

私は現在、阿蘇の玄関口の立野で苺の観光農園を中心とした農業経営をしている。しかし熊本出身ではなく、関東生まれでサラリーマン家庭に育った。私は、小学校からの夢が農場主になることで、夢をかなえるために九州東海大学農学部の1期生として熊本に来てから、早くも35年の月日が経った。私が熊本に来た頃は、農村の平均年齢も40代が中心で地域には活力もあり、農業は今よりはるかに元気であった。


しかし、この頃から既に後継者不足は深刻であり、将来どうなるかと心配されていた。あれから35年、残念なことにその心配は現実のものとなり、全国有数の農業県熊本でさえ、10年後はどうなるかとあきらめのような雰囲気さえ感じられる。それもそのはず、今農業者の75%が60歳以上、なんと40歳以下が6%しかいないのだ。


この過疎化の問題は、まさしく教育の世界にも暗い影を落としている。相次ぐ学校の統廃合は生徒の学習効果などを考えるとやむを得ないと思うが、地域の過疎化を早める要因になっているのも現実であ ろう。ここに歯止めをかけて地域に活力を取り戻すには若い人が働ける地域産業に力をつける以外、方法はないと思う。


しかし、地方で企業を誘致したり、新産業を生み出すことはそう簡単ではない。現在ある産業をいかに活性化し発展させるかこそ、地方再生の近道ではないだろうか。このような点から考えると、私が携 わってきた農業の改革こそが地方再生の鍵となるであろう。


このようななか、現在、国では農業の6次産業化(1次×2次×3次産業)を進め、農家も法人化して経営力を上げろと言い始めている。一方、国民の農業に対する関心度はここ数年大きく変わり、注目され始めている。さらに近年では、大企業を含めたあらゆる分野の人が農業参入に興味を示し、私のところにも多様な方面から相談が持ち込まれる時代となった。


私は今、まさしく農業界は幕末時代であり、これから明治維新が訪れると思っている。では、これからの日本農業界は、どのように変えることが自らの経営を発展させ、社員やその家族を守り、地域に貢献できる成長産業に変われるのだろうか?私はそのキーワードは他産業との連携だと考える。農業は今まで、より品質を良く収量を増やすことに力を集中してきた。もちろんこれは常に追求し続けながら、これからは視野を広げるべきだと思う。食糧生産をする産業は人類が生きていくための中心的産業である。このことを柱に、生命産業として何ができるのかいろいろな角度から考え、あらゆる分野と連携することが大切だ。


今、都会の人は日々の多忙な生活の中に、癒しを求めている。植物や動物を相手にする農業は、その成長を見ることや、無言でありながら手を掛けただけ答えてくれる動植物に感動する。子供たちの食農教育としても無限の可能性を持っている。また、これからの高齢社会の中で福祉とのコラボも面白い。発想を変えて、高い日本農業技術を海外で展開するコンサル業もある。


いずれにしろ農業を中心にして流通、製造、環境、教育、芸能界など、あらゆる分野との連携を模索して、新しい生命総合産業を創造することこそ、この自然豊かな島国日本の中で地方が再生することにつながると考えている。今までの産業の垣根を越えた、発展的な連携が生まれることを期待したいと思う。



2015年5月号掲載

熊本県教育委員会 委員長 木之内 均<

熊本県教育委員会 委員長
木之内 均

昭和36年9月神奈川県川崎市生まれ、58年2月南米で農業研修(15 ヵ月)、60年3月九州東海大学農学部卒業、60年4月旧長陽村にて農業新規参入、平成9年1月(有)木之内農園設立、15年6月(株)花の 海設立、主な役職として(有)木之内農園代表取締役会長、(株)花の海相談役、熊本県教育委員長、東海大学経営学部特任教授、著書「大地への夢」

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