各界から熊本同友会会員へ向けた熱きメッセージ
インターネット時代のビジネス
2016年4月に熊本を襲った地震は甚大な被害を県内各地にもたらし、現在に至るまでその爪痕を生々しく各地に残しています。2016年10月25日付の『朝日新聞』は、「熊本地震」に関するインターネット上での検索数を分析する記事を掲載し、熊本地震に対する人々の関心の動きを解説しています。データを見た蒲島知事は、発生後2週間は全国の人々が熊本の困難に共鳴していたことや、地震後半年を経過してようやく熊本における地震関連の検索数が減少して日常へ回帰したことに一定の評価を下しておられます。インターネットの検索数を分析することで、人々の心の変化をある程度明らかにすることが可能になっているのです。
わが国においては、1995年のWindows95の発売を機にインターネットの普及が始まります。現在、インターネットの人口普及率は、82.8%とされ、スマートフォンやパソコン経由で7割以上の人々が家庭の内外で毎日少なくとも1回はインターネットを利用するとされています。最近では、年齢層による格差も次第に解消されつつあるようです(平成27年版『情報通信白書』)。このような市民生活の変化と同時に、企業社会においてもインターネット化は着実に進行しました。通信事業者の売上高が急進したのを筆頭に、インターネット関連ビジネスを含むICT産業は、不況期も含めてこの30年間に一貫して拡大してきたとされています(同白書)。
近年、インターネット関連ビジネスの中心に躍り出た感があるのが、ソーシャルメディアあるいはその中に含まれるSNSです。熊本地震の際にも情報発信とその共有のためにフル活用されたFacebookやTwitterはその代表です。若年層を中心にして消費者はこれらのソーシャルメディアで「武装」しています。経済学に情報の非対称性という用語があります。製品について十分な知識を有している企業と全く情報を持たない消費者の間には製品情報をめぐって情報の非対称性があるのだと。しかし、ソーシャルメディアを通じて消費者間で情報の共有がなされるインターネット社会においては、この格差はかなり縮小していると言えるのかもしれません。
多くの企業や組織がこのソーシャルメディアを初めとするインターネットのビジネス利用の可能性に気が付き始めています。マスメディアの広告主である大企業は、次第にインターネット広告への支出配分を高めており、インターネット広告は気がつくと新聞、雑誌、ラジオなどの広告費を抜き去り、今やテレビに次ぐ広告費を誇っています。2015年においては、マスコミ4大媒体の全ての広告費が前年割れを起こす中、インターネットだけが前年費10%越えの結果を残しています(電通調べ)。もっとも、インターネットが社会に与えているインパクトの基本的な流れを見失うと、個々のビジネス上の諸策に展望は見いだせないというのも事実です。
古いマーケティング研究者にオルダースンという人がいます。彼は、「異質的市場」という考え方を示しました。同じ市場にいても消費者は一人ひとり異なった欲望を持って存在するのだと。これを知らなければマーケティングは実施できないと論じたのです。インターネットは、このような消費者志向のマーケティングを実現するための技術的基盤を提供していると考えることができます。ソーシャルメディアを駆使して情報発信している消費者の声に耳を傾け、それが向かっている方向に思いを馳せ、それに対応する戦略を構築する。このような地道な努力を重ねる企業が多くなることで、ゆたかな社会の実現がなされることを期待しています。
2016年12月号掲載
熊本学園大学商学部 教授
吉村 純一
1962年 久留米市生まれ。1990年福岡大学大学院博士課程後期満期退学、1992年宮崎産業経営大学経営学部専任講師、1996年熊本学園大学商学部専任講師、2004年ロードアイランド大学(米国)客員研究員などを経て、現職。博士(商学)。専門は、マーケティング論、流通経済学。著書に『マーケティングと生活世界』ミネルヴァ書房、2004年など
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